
撮影場所:横浜そごう そごう美術館
撮影日:2016.08.10
撮影機器:iPhone6 以下すべて同じ
レンブラント という画家については、頭の中に「これがレンブラントだ」というイメージがきちんとできていなくて、私にとっては苦手な画家の一人でした。
暗い影の中に浮かび上がる愛想のない男たち。
それが名画だと言われても、そういう画像は、たとえ高級な印刷物の画集の場合でも、コントラストばかりが強く薄っぺらで味わいのない写真画像になりがちです。
細かいニュアンスなどはどこかへ飛んでしまい、「レンブラントのよさ」がどんなものなのかが伝わってはこない。
それに、たまに日本にレンブラントの実物がきても、展示数が少なくて、レンブラントの画業がいかなるものなのか全体像がつかめない。画風そのものでさえ、「これがレンブラントだ」としかとはつかめないままなのでした。
レンブラントの絵画というのは、せいぜいそんなイメージでした。
〈愚かな金持ち〉

レンブラントは工房を経営し、弟子たちを数多く抱え、量産させて自分のサインを入れていたという話もあって、世界中に散らばる約1000点のレンブラントの作品とされてきた絵画については、じつは真筆かどうかはわからない、と言われてきたそうです。
専門家泣かせの画家だったようです。
そうなると、「これがレンブラントだ」というイメージを自分の頭の中に作り上げるためには世界中あちらこちらを旅行せざるを得ず、とても困ります。
そこへ今回の『レンブラント〜リ・クリエイト展』がやってきました。作品数はなんと油彩画だけでも350点! エルンスト・ファン・デ・ウェテリンクさんというアムステルダム大学の先生が「これこそはレンブラント本人の絵だ」とした350点の、非常に精密なデジタル複製品の展示です。実物の絵ではないので撮影は自由。
〈獄中のパウロ〉

「複製品展示を見にいったのか」と言われれば「その通り」と答えざるを得ないのですが、そもそも約1000点のレンブラント絵画が個人所有も含め世界各地に散らばっていて、その中に本物でない絵も多いわけですから、真筆のお墨付きばかりを今回一時に見ることができるというのは、たとえデジタル複製品であってもチャンスなのです。
レンブラントの絵の勉強をして、どんな絵なのかを知って、「これがレンブラントか」とじっくりと味わいたい日本の西欧絵画ファンにとっては貴重な展覧会と言えましょう。
〈エマオの晩餐〉(習作)

過去に「絵画は実物を見ない限りわからない」と何度も発言してきた私が、どういう風の吹き回しで宗旨を変えたのか、と問われるかも知れません。
しかし、昨今のデジタル複製技術の進歩は並大抵の進歩ではないのです。何よりも大きさが現物と一致しているという点が大きい。「画集にするために縮小」ということはなく、実物大の精巧な複製品なのです。縮小さえしなければ、昨今の技術では画家のタッチまでも正確に再現できるところまできています。
もちろん、まったく同じではないにしても、同じに限りなく近い複製品なのでした。
「エマオの晩餐」は、カラヴァッジョとずいぶん違いますね。
それでも、以上3枚と後に続く「イエスの奉献」など、目立つ特徴として気が付くのは光と影と質感なのですが、おわかりになるでしょうか。
〈イエスの神殿奉献〉

昨年からの学習(旧約、新約の聖書、マリア伝説、聖人伝説など)の成果で、いまでは私は「エマオの晩餐」や「イエスの神殿奉献」くらいなら、題名を見なくても何を描いたものかがわかります。
〈テュルプ博士の解剖学講義〉

これは有名な絵「テュルプ博士の解剖学講義」。幾何学的空間表現によるのではない「空気遠近法」が使われています。
絵の中のこの部屋にいかにして「奥行き」を創り出すか、という工夫があります。
〈東洋風の衣装の男〉

衣装の質感表現がすごいです。
〈ガリラヤの海の嵐〉〜 盗難に遭い、未発見のまま

「ガリラヤの海の嵐」はボストンのイザベラ・スチュアート・ガードナー美術館から1990年3月に盗まれました。
まだ未発見です。デジタル複製画展なら、盗難に遭った絵画であっても鑑賞が可能です。
〈フローラ(に扮するサスキア)〉

妻サスキアに女神フローラの扮装をさせて描いたもの。この時代の絵画を鑑賞するには、ギリシャ、ローマの神話に関する知識があると一層楽しめます。
〈アブラハムの供犠〉

「アブラハムの供犠」はよく似た弟子の作品の写真が添えられ、人体デッサンを中心に詳細な解説があっておもしろい展示でした。この絵画がどういう場面を描いたものかはご存じですよね? 映画「天地創造」を思い出しましょう。
〈夜警〉

有名な「夜警」ですが、元の絵画(原画)は1715年にアムステルダム市庁舎に移されたとき、柱の間に絵がきちんとおさまるように左端のかなりの部分と上部を少しカットされました。
中央の2名の人物が真ん中に来てしまい、なんとも妙な構図になっていることは、カットした部分を復元展示することによってよくわかるようになります。
写真の復元画は中央の人物がやや右寄りへ移動することによって落ち着きましたが、なんと、そごう美術館に展示する際、今度は天井の高さが足りないとのことで、上部を大幅カット!
絵画は主題を真ん中にもってくればよい、というものではないことがよくわかります。
ちなみに写真も同じ。みなさん気をつけましょう。
〈風車〉

たとえば上の風景画。線が入っている左上部分はカットされていて、あまりに構図がおかしいので「贋作」との評価が定着していましたが、さまざまな調査から左上部分がカットされていることが判明。修正展示されました。
さて、切りがないのでやめますが、re-create されたデジタル複製画というのも、なかなか役に立ち、おもしろいものだということを伝えたくて、今回の記事を書きました。
本展は9月4日まで横浜そごう「そごう美術館」で開催されています。
なお、カメラはすべて iPhone6 で撮影しています。