【鹿のギャラリー】

シャンティイ城の内部見学の記事を一番最初のところへ戻そう。
上の写真は、入り口を入ってすぐ右側の部屋「鹿のギャラリー」だ。
ぼくはこの部屋をちらっと覗いて、「なんだ、タピストリーの部屋か…」とろくによく見回しもしなかった、と書いた。ところが、この部屋の右奥に大ギャラリーが連なり、シャンティイ城の真の財宝はそこにあったのだ。
「礼拝堂」から出てきたとき、別行動のかみさんと出会い、「絵は見たか」と訊かれて、「そうだ、アングルの絵とか、たくさん名画があると聞いていた。肝心のそれをまだ見ていないではないか!」と忘れていたのに気が付いたのである。
この英仏旅行の中で、これこそが痛恨の失敗だ。
時計を見ると、集合時間まであと10分を切っているではないか!
【アングルの『ヴィーナスの誕生』】

というわけで、少し絵画の写真が続く。
まずはアングルだ。
正面の絵には『ヴィーナスの誕生』というタイトルが付けられているらしい。
じつは、ほぼ同じ構図の有名な作品がある。
天使とか余分なものがなく、裸婦だけを描いている。女性は髪に触っているのではなく、肩に大きな壺をかついで、その壺をひっくり返して水浴びをしている(実際には水は身体に掛かっていない)、という作品だ。
有名な『泉』という作品で、現物はオルセー美術館にある。
1981年に『アングル展』が開催され、作品が国立西洋美術館で展示されたのをぼくは観に行った。33年前だ。たいそう気に入って、ポスターも買った。
だから、『ヴィーナスの誕生』はぼくにとって「再会した」という思いが強い。
アングルという画家は「新古典派」の大家で、形(フォルム)、構図、線、輪郭を大切にする。ぼくの好みと合致している画家だ。
『ヴィーナスの誕生』は肖像画に囲まれているが、左はアングルの24歳のときの自画像だ。右は Madam Duvaucay(詳細不明)という女性。
【独特の展示方法】

なんだかごちゃごちゃと変な展示の仕方だ! と感じられる方もあるかも知れない。
このシャンティイ城・コンデ美術館に展示されている絵画は、オマール家からフランス学士院に寄贈されたときに条件があった。
「伝統的な展示法をいっさい変更してはならない」という遺言だった。
部屋の中、壁全体にところ狭しと絵画が並べられていて、「美術館らしくない」「もったいない」「ひとつひとつ近いところでじっくりみたい」「日本の国立美術館から要請があるので貸し出ししたい」などといっても絶対に不可である。
だからぼくは「大失敗だった」と後悔している。日本から13時間、パリから1時間以上かけて、このシャンティイ城を訪れない限り、これらの美術品とは対面できないのである。