
朝比奈の切り通しは「山」ではなく「岩山」を開いて作られている。
したがって、道の横側に岩壁があるというだけでなく、路面そのものが岩だ。
湧き水や雨は、この路面を流れ落ちる。歩行者はつるつるの岩面に足を取られないよう、かなり注意をして歩かねばならない。
「鎌倉時代の人たちが作ったのだから、たとえ多少険しくても、そんなに長い距離のはずがない。そう思ったのは「化粧坂切り通し」を知っているからだ。それが間違いだった。
次第に登りがきつくなり、ずうっと続いている。

坂道の途中、ところどころぽつんと仏像が立っていたりする。

花も楽しめる。
とはいえ、この日の朝、正直に言えば体調はよくはなかった。だから鎌倉へ行ってもバスを使い、ちょっと歩く程度にしようと、十二所バス停までバスを使った。朝比奈切り通しが、これほどの道だとは思っていなかった。
岩が濡れて滑るので、場所を選んでわざわざごつごつしたところを登っていかねばならない。
登りが少し息苦しくなり始め、これは気をつけなければいけない、と思った。

少し勾配が緩くなる。切り通しの最高部はもう近いのかも知れない、と思う。

右側に岩肌に掘った仏像が見え、左側にはさらに切り立った崖が迫る。しかしその先に登りはない。あと20メートルほどだ、とほっとしたとき、心房細動の発作が起きた。

突然息が苦しくなる。こうなると、わずかな登りでもきつい。なんとか切り通しの最高部までよろよろと登り、岩に腰を下ろして、頓服薬をリュックから出し、持ち歩いているペットボトルの水でのむ。
運がよければ15分、ふつうはおよそ30分~1時間で心臓は落ち着く。

進行方向を見下ろして驚いた。
このような景色を鎌倉で見ることになろうとは! 左側に黒く見えているのは岩壁で、その向こうの杉の林がきれいだ。息が上がって苦しくて仕方がないが、この景色はすばらしい。
しばらく休んでいたが、なかなか発作が治まらない。朝からの体調不良が響いているのだろう。このとき初めて、携帯電話を忘れてきたのに気がついた。たとえ困っても助けを呼ぶことはできない。ただ、朝比奈切り通しはそれなりに有名で、登りはじめてから3回ほど下りのグループと出会ってはいる。
「ええい、どうせ下りだ! 」と思って立ち上がった。なんとか行けるだろう、と。
そこまでの判断に間違いはなかったと思うのだが、ぼくはこのあとまたバカなことをやってしまうのだった。(つづく)
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また、本日は早々と「古代ギリシャ展/国立西洋美術館」を見てきた。「円盤投げ」が圧倒的な存在感だった。夏休みに入ると、大変混み合うと予想される。7月20日になる前がよいだろう、と思う。